【オモコロ特集】は、オモコロのメインコンテンツと言える特集ページ。 文章、動画、フラッシュ、音声、イラストをメインに、休日を費やし、自腹を切って、全力で非生産的なことに取り組んでます。そんな思いを具現化した特集の数々。
はげましのお便り
FEED
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | 2006.08.07 Monday | この特集のURL | - | - |
オモコロ文学: 「意味」


こんにちは。パンティ田村です。

納期前の残業中。少し気分を入れ替えたくて屋上の喫煙所に足を伸ばす。そんな時に思い出す。いつもは心の箱の中に閉じ込めている想い。

***

立ち並ぶビル。夜風。


まさか30歳手前で3年付き合った恋人に振られるとは思わなかった。自分で言うのもなんだが、特に問題のない彼氏だったと思う。顔も悪くないし、ちゃんと仕事もしてる。優しいし、結婚も考えていた。なのに、なぜ。

突然のさよならの意味がわからなかった。しかしそれが彼女の意思であるなら仕方がないと思い、僕は承諾した。


職場の時計は23時を指し、フロアにはほとんど人は居ない。疲れた顔をしてモニターとにらめっこしている奴や、仕事をするのを諦めたのか、インターネットばかりしている奴しか残っていない。

僕はタバコを吸いに、ビルの屋上へ上がった。きらめく都会のビルの灯りを見下ろしながら、もう一度何故振られたのかを考えていた。その時、後ろから話しかけられた。

「どうしたんですか?なんか真剣な顔しちゃって。」

後輩の女の子だった。かわいらしくて明るい子。ハキハキしていて、周りからの評判も良い。

僕は、そんなつもりは全くなかったが、彼女に恋人に振られた話をした。ビルの灯りが少しずつ消えていくのに切なさを感じたからかもしれない。

僕の話の最後の「なんでだろうなぁ。」が終わってから、彼女は口を開いた。


「ちゃんと愛してるって言ってました?」
「ベッドの中ではね。」
「違う。」
「なにが。」
「会いたくて、会いたくて、仕方がないってのが愛してるってことですよ。」
「子供だな。」


僕がそう言うと彼女は赤子をあやすような優しい微笑みを浮かべた。そんな彼女の表情を見るのは初めてで、僕は少し動揺し、それを隠すために2本目のタバコに火をつけて、煙を大きく吸って、吐き出した。


「そういえばお前、タバコ吸わないのに、なんでここに居るの?」
「会いたかったから。」
「はは。それじゃ、俺のこと、愛してるってことか。」
「そうですよ。」


ビルの灯りがまたひとつ消えた。

僕は驚きのあまり「へっ?」と間抜けな声を出した。


「ずっと前から好きでした。わかりませんでしたか?」
「いや・・・。そんなのわかるはずない。」
「そうですか。言っちゃった。・・・あたし、そろそろ帰ります。あんまり仕事がんばり過ぎないで下さいね。お疲れ様でした。」


そう言っておじぎをすると、彼女はパタパタとサンダルの音を立てて階段を下っていった。
僕の口にくわえたタバコの灰が、ポトリと落ちた。




そこから先は早かった。次の日に彼女を夕飯に誘った。彼女は満面の笑みでOKした。

その次の日は彼女に誘われた。彼女は僕の仕事が終わるまで待っていた。

それから結局毎日夕飯を二人で食べに行き、2週間後、彼女は僕の部屋に来た。1ヶ月後に、僕は彼女に合鍵を渡した。


彼女はいつも僕に会いに来た。毎日二人一緒だった。月に一度はどこかに出掛けようと約束をし、色々な所へ行った。

2ヶ月目には遊園地に行き、並んでいる時にケンカをし、パレードを見ながら仲直りをしてキスをした。
6ヶ月目には車で海へ行き、サザンなんかを聴きながら冷房を消して、風に揺れる彼女の髪に見とれた。
10ヶ月目のクリスマスは北海道へ行き、スノーボードでしこたま転んだ後で、カニを食べあさった。
毎日毎日、楽しいことばかりだった。そして、彼女が死んだのが3日前。



ただ少し急いでいて、ただ階段を踏み外しただけだった。ただ少しだけ当たり所が悪かった。そんな「ただ少し」が重なって、彼女はあっけなく僕の前からいなくなった。

全く実感がわかなかった。葬儀が終わり、自分の部屋に帰るとまだ彼女の物がある。

出掛ける時に寝坊しないように買った大きな目覚まし時計、UFOキャッチャーのぬいぐるみ、使いかけのメイク落とし。

それがもう、彼女の「物」ではなく、彼女の「遺品」だということを知った瞬間に、急に涙があふれ出した。

泣きながら彼女の遺品を集め、それを見てまた泣いた。子供のように声をあげて泣いた。




涙が少し落ち着いてきたら、深夜、僕は車に乗って職場の屋上へ行った。

ここでの彼女の言葉を思い出すと、ビルの灯りがまた涙でにじむ。


僕は彼女に一度も愛してるとは言えなかった。いや、言わなかった。

彼女は愛してるという言葉の意味を知っていたし、僕はその意味を知らなかった。

知らないことを彼女に気付かされてからは、僕は一度もその言葉を言っていない。意味を知らない言葉を使うのは好きじゃない。でも、今わかった。






会いたいよ。

















今回の話の登場人物

僕:   知らない人

彼女:  知らない人

仕事を諦めてインターネットしてた奴: パンティ田村

| 2006年5月の特集 | 2006.05.28 Sunday 23:53 | この特集のURL | comments(56) | - |
スポンサーサイト
| - | 2006.08.07 Monday 23:53 | この特集のURL | - | - |
コメント
感動しました。
| 2106 | 読んだ奴: ブリーフ・オッタ | 2006/05/29 12:34 AM |
感動したよ。涙でディスプレイが見えない。
| 2107 | | 2006/05/29 12:35 AM |
最後のオチが照れ隠しみたいで、余計キュンときました。
| 2108 | ヤカ | 2006/05/29 1:03 AM |
ちょwww田村wwサボるなw
| 2109 | さよなら | 2006/05/29 1:05 AM |
私も今意味を知りました。
大切な事を教えてくれてありがとう。
| 2110 | 77 | 2006/05/29 1:10 AM |
めちゃめちゃせつない。
せつなくて眠れなくなりそうです。
恋したいなぁ。
| 2111 | | 2006/05/29 1:23 AM |
めちゃめたにジーンときてしまいました。。
確かに最後のオチは照れ隠しっぽいw
| 2112 | ぅぃ | 2006/05/29 1:49 AM |
泣かされたのにさいてー(>_<)笑
| 2113 | ちゃんぽん | 2006/05/29 2:12 AM |
タイムリーなことに、つい先日大事な友人がちょっとした偶然の重なった事故で亡くなりました。
だから、すごく、重く感じました。
会いたいって思うことは愛してる、ってなんだかわかる気がします。
暗いコメントしちゃってすみません。

この物語にはオチがあって、面白いです。
けど、本当に考えさせられました。
出会えて良かったです。
| 2114 | | 2006/05/29 2:20 AM |
まさかオモコロで、って所がオチですか・・?
そういえば、"儚さ"ってお笑いにも大切な事ですね。
| 2115 | | 2006/05/29 2:38 AM |
素敵だぁ…感動した…。
これって本当にフィクションですか…?リアル…。
会いたいは愛してる…格言だ…。
| 2116 | | 2006/05/29 3:32 AM |
インターネットって面白いですよね。
| 2117 | 肉球 | 2006/05/29 4:12 AM |
この路線はありだと思う。
| 2118 | 筋肉 | 2006/05/29 5:08 AM |
あり。十分あり。まぢで感動した。どんなオチがあるのかドキドキして読んでしまう自分がいたけど。最高です。
| 2119 | レオ | 2006/05/29 9:20 AM |
来た!田村さんぶし☆
素敵だ。。。
| 2120 | マコるし | 2006/05/29 10:01 AM |
インターネットは大切ですよね
| 2122 | | 2006/05/29 12:04 PM |
大切なことに気付きました
オモコロでこんな話を読むと思わなかったw
オモコロ読んで良かったと思えました
| 2124 | もも | 2006/05/29 12:19 PM |
心が浄化されました。
ありがとうございます!
| 2125 | いきものがたり | 2006/05/29 1:38 PM |
まじで感動したつД`)・゚・。・゚゚・*:.。..。.:*・゚
| 2126 | カリン | 2006/05/29 1:42 PM |
味噌と恋愛する話が初期にあったと思うんですけど、
あれも含めて、オモコロの人たちは文の芸風多彩で
すごいですね。
| 2127 | | 2006/05/29 4:16 PM |
リアルに感動しました。
彼女が死ぬまでの時間描写が素敵すぎて最後のオチは涙で読めませんでした、

| 2128 | miwa | 2006/05/29 5:10 PM |
ちょっとwwwwオチがwwでもきっと田村さんにも可愛い彼女がいるんだろうなぁ(T^T)その彼女がうらやましい(>_<)
| 2129 | | 2006/05/29 6:01 PM |
マジで感動。
| 2130 | | 2006/05/29 8:22 PM |
全米が泣いた
| 2131 | | 2006/05/29 8:26 PM |

泣くまいと思ってたのに最後の1行で笑い泣きした
| 2132 | | 2006/05/29 8:43 PM |
パンティの彼女になりたい
| 2133 | | 2006/05/29 9:30 PM |
最後の一行で泣いた。
| 2134 | | 2006/05/29 9:32 PM |
信長のとコレですごい文才を感じた
| 2135 | | 2006/05/29 9:49 PM |
前々から思ってたんだが、純愛系のショートショート→最後に下らないオチって完全にらせんのパクリじゃん。パンティ田村はそれで賞賛されて嬉しいのか?神経を疑う。
| 2136 | | 2006/05/29 9:54 PM |
予定調和だよ
   大好物です ヽ(゜▽、゜)ノ
| 2137 | | 2006/05/29 10:05 PM |
感動しました、なんかRADWIMPSの「25コ目の染色体」みたいですね。
| 2138 | スガ | 2006/05/29 10:06 PM |
ならごちゃごちゃ言わず去れ
| 2139 | | 2006/05/29 10:09 PM |
う〜ん。
亡くなったとたんにその人の「物」が「遺品(形見)」になるって感覚は、経験した人じゃないとわからないよね。
ほんとに、そう。
| 2140 | みわ | 2006/05/29 10:12 PM |
ならごちゃごちゃ言わず去れ
| 2141 | | 2006/05/29 10:15 PM |
他の方も書いてましたが
(良い意味での)
「まさかオモコロで?」感。

「物」が「遺品」に変わるって
身近な人が亡くなった時に
改めてそういう「物」を見渡してから
本当にそう思うだよなーってしみじみしました。
| 2142 | junes | 2006/05/29 10:22 PM |
すごくよかった、オチまでよかった。
| 2143 | | 2006/05/29 10:49 PM |
パンティーは照れ屋さんだってことが分かった。
でも、これ本当良かったよ…照
| 2144 | ルマン | 2006/05/30 12:07 AM |
会いたい人がいるって、幸せな事なんですねぇ
| 2145 | | 2006/05/30 12:26 AM |
文に悲しみと愛しさを感じました。
| 2146 | 素敵だ… | 2006/05/30 12:47 AM |
あぁ。。やっぱ田村さん大好きだわ。
| 2149 | | 2006/05/30 1:54 AM |
どーでもいいけど
トップページにある
> センチメンタルな描写が、あなたの心の琴音に触れる。
琴音→琴線だよね。
ほんと、どうでもいいけどさ。
| 2150 | | 2006/05/30 3:48 AM |
仕事を諦めてインターネットしてたパンティ田村さんには
泣ける話是非これからも書いてほしいかも
| 2151 | q | 2006/05/30 3:49 AM |
いつものオモコロ展開かと思って油断していたら、泣きそうになりました。素晴らしい作品だと思います。
| 2152 | t | 2006/05/30 8:22 AM |
米見るまでオチに気がつかなかった。
普通に泣かされそうになったよ、アブナイアブナイ。
| 2153 | | 2006/05/30 9:26 AM |
ちょwwww
インターネットしてたのが田村さんかwwww
泣きそうになったのにwwwww
| 2154 | 鞭刑 | 2006/05/30 10:18 AM |
吸い込まれるように読んでしまいました グッと来た
変態も恋愛も書けるんですね!
| 2155 | ほし梅 | 2006/05/30 10:44 AM |
インターネットばっかりやってないで仕事しなさい!
| 2156 | | 2006/05/30 11:52 AM |
↑いやいや、田村さんは良い仕事してるよッ!!
| 2157 | ダイヤ | 2006/05/30 12:27 PM |
世界の中心で(パンティ)田村と叫びたい
| 2158 | | 2006/05/30 12:29 PM |
全欧こそ泣いた… ;x;
| 2159 | いのー | 2006/05/30 12:35 PM |
第2章は手話でお願いします。
| 2160 | ロード | 2006/05/30 6:12 PM |
田村さんのこうゆう系統は毎回ドキッとさせられます。
じーんときました。奇麗な文章ですね。
文章の繋がりが滑らかで、心が浸透していくようです。
オチも嫌味や強烈さがなく、読後を軽くしてくれるもので素晴らしかったです。
微笑ましい。あー最高!パンティさいこー!!
| 2161 | | 2006/05/30 7:47 PM |
パンティさいこー!!
| 2162 | | 2006/05/30 7:49 PM |
よかったです
| 2163 | | 2006/05/30 9:18 PM |
> 「はは。それじゃ、俺のこと、愛してるってことか。」
> 「そうですよ。」
>
>
> ビルの灯りがまたひとつ消えた。


この行間が良いです
冗談を言った先輩の言葉に返す後輩の真っ直ぐな言葉

ドキっとさせられました
| 2176 | yu-ki | 2006/05/31 10:34 PM |
オモコロでこんなのが、こんなのが載ってるなんて。
びっくり。そのギャップにやられ、かなりぐっときました。
| 2203 | りんご姫 | 2006/06/05 4:37 PM |

コメントを書く











トラックバック

この記事のトラックバックURL

http://omo-coro.jugem.jp/trackback/59
<< 動画: 「学習しない人」 | main | 動画: 「落馬する人」 >>
オモコロショップ
オモコロショップでオリジナル詐欺グッズを購入しよう! 宇宙のパワーを吸収し幸せになることができる素材で作られています。
からまわりTV
からまわりTVは、オモコロスタッフが作った新作・未公開動画が見れます。安眠マスクを付けてご覧になって下さい。
factio.jp
自分のTシャツブランドを持ちませんか? ドロップシッピングというシステムで在庫を持たずに低価格でTシャツが作れます。